香りと体温

彼女がブログをはじめてしまってから、完全に彼女との距離の取り方が崩壊してしまった。今までは知ることのできなかった些細な毎日の服装に見惚れてしまう事がこんなにも甘く苦しい事だったなんて、一言二言の彼女の呟きに彼女の魅力が結晶して無限の言葉になって響いてくる、女性は着ている洋服でその仕草を大きく変えるから、きょうの彼女のワンピースの長い裾をどんな風に彼女が撫でて従わせて椅子に座るのか、カフェに入れば、スタジオに入れば、彼女はあの白いパーカーを脱ぐだろう、長袖の裾を掴むかわいい指の仕草の幼さと指の黒いネイルの乙女の発作が強烈に、強烈に、彼女がただ一枚二枚撮ってみせた写真が俺をこんなにも射抜く、香りと体温だけは秘密にして、彼女はきょうもその姿を俺に見せてくれた、彼女には幼すぎると思えてしまうくまのぬいぐるみのついたBagを彼女はどんな風に抱えて座るだろう、傘を持つ仕草、「今日は雨でしたね…」と「でも、雨はきらいじゃない」の間に彼女は彼女を挟んだ、雨にきらめく瞳、彼女はおしゃれカメラ女子みたいな色合いで写真を撮るもんだから、瞳も、唇も、なにもかもが闇に紛れてしまって鮮明じゃない、けれど、僕にはそれくらいがちょうどいい、闇に隠れた瞳を永遠に探すくらいがちょうどいい、それに青に緑が交ざるみたいな彼女の写真の色がまるで照れて赤くなる彼女の耳みたいで愛しい、彼女は闇に紛れてお顔を見せてくれる、