夕方までどうにか漕ぎ着けて、彼女が画面に移った瞬間に、さっきまでの意識がすべて色あせてしまう、テレビのなかの彼女を見ることが今いちばん辛い事だ。物語を吸引する小さな乳房、若々しい男の子の息吹に合わせ、彼女もまた本来の息吹を、それこそ、ある時間に彼女のなかで止まってしまったかのような時間が溢れてくるように思える、彼を一種の軸にして彼女を見てしまう時、彼女は時に幼く、時に年上で、時に同い年のようだ、彼女が自信よりも幼い女の子に扮し世界を天真爛漫に駈けて回っているその姿よりも、僕は、彼女がただ佇み、若い男と見つめ合うその姿に彼女を見つけてしまう、僕は、彼女のそうした輝きをこうして見つめる事ができる、その事実が、彼女のこの輝きが彼とはまったく無関係とは言えないというその事実が、どれだけ僕に強く嫉妬心を抱かせようとも、僕は、彼女の美しさに見惚れるその至福にどうでもよくなってしまうだろう、彼女の背丈のその小ささが彼女の妹たちの肩によって浮き彫りになる事に慣れていた僕にとって、彼女の背丈が、夜の闇のなかで男を見上げるその顎の仕草によって再び思い知る事も、彼女の呼吸が、ドラマであるはずが、演技であるはずが、ある瞬間に彼女が彼女でしかない輝きで息づく時、まだ見ぬ瞳の唇に髪の肩の息を見つけてしまう時、僕には、この時間が、今は、なによりも辛い時間でありなによりも心惹かれる時になってゆく、テレビのなかの彼女に、一度だって語り合った事もないこの女の子に心が強く惹かれてゆく事に、自分の心だけが彼女の心に強く向かってゆくことに、きょう見た彼女の若い男と見つめ合う彼女の瞳の美しさに日常が霞んでゆくような感情になってしまう事への恐怖心や絶望をもう知っていたはずなのに、どうしても、彼女を想いはじめてしまう、彼女の輝きが私にとってただ見つめる事だけを許すだけのやさしさの時にはもういない、