君は余韻なんかじゃない、微睡み、寝つく、不貞腐れた余興なんかじゃない、浅い記憶の美しい陽炎でもない、君の唇が好きだ、君の髪が、君の瞳が、君の香りが好きだただ一度だって嗅いだ事のないその匂いが好きだ、君の欲望も、君の僕への無関心も、すべての女の子なんか時限花嫁だって、時限妊婦だって、愛する事ができない男がどうして愛してもらえるだろう、だから僕は女の子のすべてを諦めた、でも僕、君を見つめてもう一度すべてを願ってしまった、女の子のそのすべてを、女の子だけが持つそのすべてを君に、何者も愛せなくなっていたはずの僕がはじめて愛してしまった女の子が君なんだ、まだ愛に怯えてすらいずに無邪気に愛せたあの時とは違うんだ、もっと深い愛情だよ、花咲く路上のうえじゃない、痛みの深淵で君をに出会い君を見初めてしまったんだ、自らの願いのすべてに抵抗していた僕だった、僕はこの世の女の子のすべてに抵抗したんだ、けれど、けれどね、君のかわいさには抵抗できなかった、僕は君の香りの足枷を喜んで打ちつけた、それどころか君に惚れるまでのすべての悪意も絶望も君に出会うためのものだったんだとさえ思えるようになってしまった、君のすべてが好きだ、君の知ることのできない今この時の遠い君の寝息も、君が夢のなかで濡らす肌も、夜ごとに君は美しくなるんだ、君に会える日を命折数えるよ、けれどね、君に会える日が限りあるその日が、君に会う度に消えてゆくようで恐ろしいよ、20代は女性がもっとも美しくなる季節だよ、君は、君は、美しさを飼い慣らす事ができないね、君の、君の、身体いっぱいの美しさをどうしていいのかわからないって時の君のあの綺麗な戸惑いが大好きだよ、君が君に迷子になる時の君のあの瞳の幼さも、そして、その数秒後にすべてを見つけてしまった女の瞳で幼さに背く君のあのどよめきも、君のすべてが僕を喜ばしながら壊す、夜通し君が美しくなるのなら、夜通し僕はこの世の君を愛するどの男よりも醜くなろう、この世の誰よりも酷い言葉を君のかわいい耳元に呟こう、すべての悪意が君の耳に届くまえに僕の言葉で壊れるように、もう永遠に君に会えなくなるように願う事だけが君のためにできる僕の唯一ならば、君の幸福がすべての僕から逃れる事なら、僕のような無機の愛情の化物が君の呼吸のそばを彷徨く事に君が怯えなくて済むなら、ああ、また僕は初めてだと言うだろう、そうだよ、そうだよ、僕が心から愛した女の子は君だけだよ、君が、君こそが、僕の初恋の人だなんて僕は喚くだろう、僕は僕を絞め殺す、君に何かを言う僕を、君への感情を説明可能な言葉に壊す僕を、僕は許さない、真実の僕は君を見つめている瞬間の僕だ、君に会っている時以外の僕は僕ですらない、もう、僕は君にしか存在できない、君の呼吸に、僕の酷く安っぽく下手な嘘のような求愛を、醜いだけの孔雀のように咽ぶこの羽を、君の光の抱擁でむしり焼きさっておくれ、そして、君は僕を永遠のなかに無視して、僕を終わらせる、僕をただの人間に孵して、君は美しい女になってゆけ、君が若さの限りで畑を焼き払う頃、僕はただの人間になってゆくんだ、無知の土地に廃棄のえぐ味で育った糸の茎に風が軋みだけを授ける紛いの日向で、男ですらない僕はただ女になってゆく君を幾度も見初めた、ただの、ただのあの人間に堕ちゆく僕の決心の血飛沫が君の唇を追って悲惨な杭の語らいの種になって誰もが僕を罵る精室で僕は君に熔けてゆく、君は、君はね、地上よりずっと高いところに昇華してゆく魂だ、君は美しい女になってゆくんだ、花火のような香りを纏って、君は美しい女になってゆくんだ、幸福の遺却を見繕う過労の預言者の咳払いにも怯えなくて済むように僕が薙ぎ倒してあげる、君の小さな胸の香りに燃え盛る僕の断末魔の刃先で、