何年まえだろう、君を見つけてしまった夜を。
初恋を一緒に埋めてくれる女の子に出会いたい、そう願って見渡した焼け乙女野原で、そんな酷い場所で君を見つけたわけじゃないよ。

君は俺を心の底から一ミリも傷つけないように、空をメロンソーダに漬けたみたいに甘く、慰めてくれる香りを瞳を髪をボディを誂えて、俺の乙女への願いを神に別注したような乙女なんかじゃない。

いいか、君は俺が傷つきたくなくて神に別注した乙女なんかじゃないんだ。

最初で最後だって豪語した恋の終わりによって何キロも痩せてしまったとか首の動脈を括ってしまったとかそんなためらい物語傷なんてどうでもいいんだ、そんな事はずっと問題じゃない、それどころか、予感がうれしかったんだ、もしかしたらこの女の子になら本当に壊されるかもしれないし、生きてゆけるかもしれないって、そう思ったんだ、傷つきたくなくて君を愛したんじゃない、傷つきたくて君を愛したんじゃない、僕はただ、静かに誰かを思いたかった、君はその静けさだった、君は僕の激情のなかに光灯った唯一の静けさだった、

俺が誰に死にながら愛を告白ループしてたかとか、まだずっと若すぎた君がどんな大人とどんな危うい規律に巻き込まれて誰とどんな夜を過ごしたとか、砂糖に硫酸をかけて世界をぶっ壊すように互いの過去を暴きあって、刺し合って何度も刺し違えて二人だけの愛は壊れてしまうだろうから、出会ったらね、君と俺が出会えたらだよ、そんな事さ、絶対にしないようにしようね、僕の過去をきかないで、君の過去をきかないから、そんな愛で待ちわびようと思うんだ、君との今を、君との明日を、でも、まるで過去を持ち得ない男のように演じるけど、眼つきにも匂いにも俺の野蛮さや未熟児風情の30年越しの不適合者フレーバは拭えないはずだよ、でも、きっと同じように君の瞳には傷もあってその傷が俺には見えるんだ、僕はその傷が好きだ、

花のような希望を抱いて君に出会えたわけじゃないじゃないか、漆黒の闇火を帯びた絶望のなかで君に出会えたわけでもないじゃないか、だから、
ひとつの恋が終わって、ひとつの世界が終わって、静かに生きながらえた先のいつかの夜に、何気なくただ君に静かに恋焦がれただけだったじゃん、君を好きになっちゃっただけじゃんか、その事に気づいたよ、だからね、君がきょうもこうして静かに強く生きて居てくれただけで、恐ろしいくらいに泣けるし真顔になれる、俺の眼つき、君も怖がるかな、怖がらせたらごめんよ、好きなんだ、好きなんだ、俺にはやっぱ君だけがレディなんだ、もう自分をあやせないよ、君じゃなきゃだめなんだ、

なにも変わりはないよ、出会った日から今までずっと、君はこんなにも静かにいつだってかわいさを散りばめて僕を魅了してくれてた、きょうも君が好きだった、

君、素敵でいろよ、約束事はそれだけだ。